医療機器向け金属加工の要件と素材選定・加工精度の基準|淀川金属

医療機器向け部品では、一般産業用途とは異なる精度・表面性状・材料特性・清浄度が求められます。本ページでは、切削加工・フライス加工を前提に、医療機器加工に必要となる実務的な要件を体系的にまとめています。
医療機器向け金属加工で共通して求められる要件
1. 寸法精度と公差の基準
医療用途では、±0.01〜0.02mm といった高精度が要求される部品が多く存在します。特に以下のような医療機器カテゴリで高精度要求が顕著です:
- 診断装置(超音波・内視鏡)
- 治療機器(レーザー装置・高周波機器)
- 分析装置(血液分析、PCR機器)
温度変化による寸法変化も考慮するため、アルミの場合は6061・5052が安定性の面で優位です。
2. 表面粗さの要求値
装置内部部品やガイド部品には Ra0.8〜Ra1.6 程度が一般的ですが、光学関連・摺動部では Ra0.4 以下を要求されるケースもあります。
粗さが必要な箇所は、フライスのみでは基準を満たさないため、必要に応じて以下を併用します。
- 研磨
- ラップ仕上げ
- ショットブラスト
3. 使用される材料の傾向
医療機器向け部品に使われる金属材料の代表例と採用理由は以下の通りです。
| 材質 | 採用理由 |
|---|---|
| A5052 | 成形性・耐食性に優れ、筐体部品に多い |
| A6061 | 強度と寸法安定性のバランスが良く内部機構部品に採用 |
| A7075 | 高強度が必要な可動系・固定治具に使用 |
| SUS304 / 316 | 耐食性・清浄性が高く、滅菌が必要な部品で採用 |
アルミ材料の組成については、JIS規格に基づいて選定することが一般的です。
4. 滅菌・洗浄への対応
医療現場で使用される装置部品は、化学的・熱的ストレスにさらされるため、以下の対応が必要です。
- アルマイトの耐薬品性評価
- ステンレスの電解研磨
- 脱脂洗浄(有機溶剤・アルカリ洗浄)
- パーティクル管理(洗浄後のクリーン梱包)
医療機器特有の設計・加工上の注意点
1. バリ管理
医療用途では装置内部での異物混入が致命的なため、バリゼロ要求が多くあります。以下が推奨される処理です。
- 手作業のエッジ仕上げ
- 微細部品はブラストによる一括除去
- タップ穴はドリル逃げ形状の最適化
2. ネジ部の選定
装置メンテナンス性の観点で、下記が選ばれる傾向にあります。
- ステンレス製インサート(アルミ部品の耐久性を向上)
- トルク管理を前提とした細目ねじ
- 緩み止め処理(ねじロック、フランジ付きボルト)
3. 筐体フレーム部品と機構部品の違い
| 部品区分 | 要件 |
|---|---|
| 筐体・外装部品 | 外観品質、耐薬品性、軽量性、放熱性 |
| 内部機構部品 | 精度(穴位置・平行度)、摺動性、耐疲労 |
医療機器向けでよく使われる加工方法の特徴
1. 切削加工(マシニング)
- 精密穴加工(H7〜H8程度)に対応
- 薄肉加工の変形対策(クランプ位置管理、低切削抵抗工具)
- 光学装置のフレーム加工で多用
2. フライス加工
- 直角度・平行度の基準面加工に使用
- 筐体の大型プレート加工に有効
- 表面粗さを抑えるための送り速度最適化が重要
医療機器向け金属加工でよくある質問
Q1. 医療機器部品ではどのアルミ材が最も一般的ですか?
A6061が最も多く、次いでA5052が採用されます。強度が必要な場合はA7075が選ばれます。
Q2. 医療用途で要求される表面粗さはどれくらいですか?
一般部品で Ra1.6、摺動部・光学関連で Ra0.4〜0.8 が多く採用されます。
Q3. 滅菌に使用される薬品にアルマイトは耐えられますか?
アルカリ性薬剤に弱いため、耐薬品アルマイトやステンレス材の使用を検討する必要があります。
Q4. バリゼロ要求の対策はありますか?
工具条件最適化、ブラスト併用、手仕上げを局所的に追加することで対処します。
医療機器の金属加工は、他用途に比べて「精度・清浄度・表面性状」の要求レベルが高いため、素材選定と加工プロセスの両方を適切に設計することが重要です。
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