精密機械向け部品加工における設計・加工上の実務ポイント

精密機械の部品加工では、一般産業機械とは異なるレベルの加工精度・熱対策・加工工程管理が要求されます。本ページでは、精密部品製作に必要となる公差設計、加工条件、材質選定、後工程の品質確保など、実務に直結する内容のみを体系的に整理しています。
目次
精密機械における「精度要求」が厳しい理由
精密機械の部品では、以下の要因により高い精度(IT6〜IT7級、公差±0.01mm以下)が求められるケースが多くなります。
- 熱変位による寸法変化の影響が大きい(高回転・高速動作の軸受・スピンドル部など)
- 微小なガタが性能劣化につながる(測定機器・医療系の送り機構など)
- 組立誤差が許容されない(位置ズレが全体性能に直結するため)
精密部品の図面で必須となる指示事項
精密部品では、図面指示が曖昧だと狙いの精度に到達しません。以下の項目は必須です。
| 指示項目 | 理由 |
|---|---|
| 幾何公差(平面度・平行度・位置度) | 一般公差では機能精度を確保できないため |
| 面粗さ(Ra0.8〜0.2) | 摺動部・密着部で必要となるため |
| 加工基準面の指定 | 加工工程がぶれると精度が確保できないため |
| キリ穴 or 下穴寸法を明確化 | タップの品質と位置度に影響するため |
加工時に注意すべきポイント(実務)
① 熱変位対策
- アルミ系は熱伝導率が高く、切削熱で変形しやすい
- 鋼材は硬さにより刃先温度上昇 → 工具摩耗による寸法バラつきが発生
- 最終仕上げは機械の安定温度時に実施するのが基本
② 細長い部品のたわみ対策
- 芯押し・振れ止めの使用
- 荒加工→応力取り→仕上げ加工の二段工程
③ バリの管理
精密機械ではバリが機構の引っ掛かりや誤作動を招くため、以下の処理が標準となります。
- 微細バリ除去(マイクロデバリング)
- 複合バリ対策(穴貫通部)
- 面取り寸法の明示(C0.1〜C0.3など)
材質別の注意点
● アルミ材(A5052・A6061・A7075 等)
- 熱膨張が大きく精度が動きやすい
- 仕上げ刃物の摩耗が早い(特にA5052)
- 硬質アルマイトを前提とした寸法指示が必要な場合あり
● 炭素鋼・合金鋼
- 熱影響が大きく、途中応力抜きが必須
- 硬度によって工具摩耗が急激に増える
● ステンレス(SUS304・316)
- 切削抵抗が大きく寸法安定が難しい
- 発熱しやすく反りやすい
精度確保のための加工工程管理
精密部品は工程の組み方で精度が決まります。特に重要となるポイント:
- 荒加工 → 応力除去 → 仕上げの工程を分ける
- クランプ位置を変えずに加工基準を統一
- 歪みが出る材質は仕上げ量を多めに残す
- 温度管理(室温20±1℃が理想)
組立工程での注意点
精密機械向け部品は、加工後の組立工程まで見据えることが重要です。
- 組立基準面の明確化
- 位置度管理した穴の芯ズレ防止
- 圧入・焼きばめの寸法補正
- 摺動部品は表面粗さ・直進度の事前確認が必須
よくある質問(FAQ)
- Q1. 精密部品で一般公差のまま依頼すると問題がありますか?
- A. はい。機能部品の場合、一般公差では性能が出ず再加工が必要となるケースが多いです。幾何公差の指示を推奨します。
- Q2. ±0.005mmレベルの加工はどの材質でも可能ですか?
- A. 材質により難易度が大きく異なります。アルミは変形しやすく、ステンレスは発熱で精度が動きます。
- Q3. 面粗さ指定(Ra0.4以下)は加工コストに影響しますか?
- A. 影響します。刃物寿命・加工時間が増えるため、費用に反映されます。
- Q4. 細長いシャフト部品の真円度が安定しません。対策はありますか?
- A. 芯押し・振れ止め、荒加工後の応力抜きなど工程管理で改善できます。
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